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2009年09月27日

【本】素粒子物理学をつくった人びと 上・下

素粒子物理学をつくった人びと

原題:THE SECOND CREATION Makers of the revolution in 20th-Century Physics
著者:ロバート・P・クリース&チャールズ・C・マン
訳者:鎮目恭夫、林一、小原洋二、岡村浩
装画:いずもり・よう
装丁:守先正
出版:ハヤカワ文庫 ノンフィクション NF347/348 各¥1200、P525/P538
版数:初版2009/4
ISBN:978-4-15-050347-5/050348-2
初出:原著初版発行 1986年、翻訳版早川書店発行 1991年、原著改訂版(底本)1996年
入手:
読んだ日:2009/9/26
感想書いた日:2009/9/27

■内容(上巻カバーより)
広大な実験施設で大量のエネルギーを投入し、加速した粒子同士をぶつけて壊す。何のために?それh万物の成立ちの究極理論を実証するためだ。素粒子物理学と呼ばれ、数々のノーベル賞学者を輩出するこの学問は、20世紀初め、原子の構造の解明に頭を悩ませた学者が、波でも粒子でもある「量子」を発見したことから始まる……理論と実験の最先端でしのぎを削る天才たちの肉声で構成された、決定版20世紀物理学史(全2巻)

■感想
いやはや、なかなか読み応えありました。
実に面白かったです。
文庫本に拘わらず上下分冊それぞれ1200円となかなかのお値段ですが、買った甲斐がありました。
大学で物理を学んでいたにも拘わらず、素粒子論はいつも入り口で挫折をしてしまうのですが、本作は人々のエピソードが豊富で、理論についていけてなくなっても、楽しんで最後まで読めました。

アメリカ中心で、日本人の扱いがちいさいんじゃないって不満もなくもないですが、量子力学の誕生から弱電理論、標準模型、超弦理論へと素粒子物理の歩みを読みやすい形で提示してくれています。

上巻はボーア、ハイゼンベルグ、シュレディンガー、ディラックと慣れ親しんだ名前が出てきて、彼らの知らなかった一面が見られて実に面白かったです。
下巻はいよいよザ・素粒子論な話なので、出てくる人もあまりなじみがなかったのですが(ファインマンは別として)、こちらもみんな人間くさくていいですねぇ。

人間くさい物理学者がこの本にはつまっています。
試行錯誤し、間違ったアイデアにみんなで飛びつき、離れていきと…
そしてまた、理論と実験は科学の両輪なんだなぁとつくづく思いました。
理論で予想した結果を確かめるために実験する。
そして実験であらわれた現象を説明するために理論を作る。
こうして、素粒子論は前に前に進んできたのでした。
(でも、超弦理論など究極の統一理論は、現時点では実験では実証するすべがないそうな…うーん、こまったね。)

原著の初版が書かれたのは1986年とだいぶ前なのですが、今回の文庫化にあたり付録として、その後の素粒子物理の歩みも載っているのが親切です。

下巻は理論的な部分はぜんぜんついていけてなかったので、そのうち再読したいですね。
(といってしないのがいつものパターンですが…)

お薦めなんですが、ある程度、科学に対する素養がないと、読みにくいかもです。

■評価(満点は☆☆☆☆、普通は☆☆、★は1/2)
《俺》☆☆☆★
《薦》☆☆☆

■引用(P285 8ヒドラ退治(その1)から)

一九四八年三月三〇日の火曜日、第二回シェルターアイランド会議が開かれた。今度の会場はペンシルバニア州ポコノ・マナーのポコノ・マナー・インだった。前回の会議のメンバーの大部分が参加したが、新来者の中にニールス・ボーアがいた。今回の呼び物はジュリアン・シュウィンガーによる異例の五時間講演だった。ホテルのラウンジに置かれた携帯用黒板を方程式で埋めながら、彼は集まった物理学者たちに、量子電磁力学のめのくらむような完全な再構成を順々に示していった。それにより、あらゆる無限大は電子の観測される電荷と質量の中にくり込まれ、「裸」の質量と「裸」の電荷という概念と、それらに伴う電磁気的な付属物はすべて回避された。≪中略≫ その場にいた物理学者の一部は、シュウィンガーの駆使するきらびやかな数学的技術の列にアンビバレントな反応を示した。彼らは、彼の講演を、名演奏の極致だが、音楽よりは技術的な誇示、美しいが冷たい独唱曲と評した。彼が黒板に書いていったものの大半は、この理論にたどりついた道の記録に過ぎず、本当は物理ではない、と彼らは言った(シュウィンガーはそうは思わなかった)。とはいえ、居合わせた人は誰もが、自分は歴史的な場面に居るのだと感じた。新しい世代の物理学者がついに支配権を握った。ニールス・ボーアの眼前で、一人の若者――シュウィンガーはまだ三〇歳になったかならないか――が場の理論の正当性を立証し、量子電磁力学のくり込みに成功したのだった。

素粒子物理学をつくった人びと〈上〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

素粒子物理学をつくった人びと〈下〉 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)

投稿者 niimiya : 2009年09月27日 17:24

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