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2009年07月25日
【本】ふらんす物語
ふらんす物語
著者:永井荷風
注解:三好行雄
解説:中村光夫
出版:新潮文庫 草69A ¥220 P248
版数:初版1951/7 18刷改版1968/11 29刷1974/9
初出:雑誌「新潮」「早稲田文学」ほか
入手:古本 ¥150
読んだ日:2009/7/13
■内容(カバーより)
フランスに来て初めて自分はフランス気候が如何に感覚的であるかを知った――。青年永井荷風が体験した「西洋」をつづったこの小品集は、その異国趣味と新鮮な近代感覚とで耽美派文学の源流となった。フランス渡航に先立ってアメリカ生活を送った荷風は、ヨーロッパをほとんどアメリカ人の眼で観察し、その独特な視野から西洋文化の伝統性と風土との微妙な調和を看破している。
■収録
船と車
ローン河のほとり
秋のちまた
蛇つかい
晩餐
祭りの夜がたり
霧の夜
おもかげ
再会
ひとり旅
雲
巴里のわかれ
黄昏の地中海
ポートセット
新嘉坡の数時間
西班牙料理
橡の落葉
裸美人
恋人
夜半の舞踊
美味
ひるすぎ
舞姫
■感想
永井荷風って青年時代にフランスで1年ほどすごしているんですな。
で、帰ってきた後に発表したフランスを題材とした作品群がこの本。
もうほぼ全編から荷風のフランスへの愛が満ち溢れております。
そして、なにより描写が美しい!
普段は筋ばかり追ってて、文章を味わうなんてこと碌にしない私ですが、この本はスルメを食べるように、噛み締め噛み締め読みました。
成熟して時に退廃的なフランスの文化や風景が若き日の荷風の瑞々しい文章で描かれています。
アメリカからフランスに到着したところから始まり、最後にはついにフランスをさる場面がやってくるのですが、この時の惜別の想いが胸をうつのです。
今みたいに、その気になったらいつでもいけるという時代じゃないですから、今生の別れなわけですよ。
もう断然おすすめです。
■評価(満点は☆☆☆☆、普通は☆☆、★は1/2)
《俺》☆☆☆★
《薦》☆☆☆
■引用
P172 「巴里のわかれ」より
朝日が早くもノートルダームの鐘楼に反射するのを見ながら、自分はとぼとぼとカルチェーラタンの宿屋に帰った。窓の幕を引き室中を暗くして、直様眠りに就こうとしたが、巴里に居るのもこの日一日と思えば、とても安々寝付かれるものではない。リュキザンブルの公園の森に勇ましく囀る夜明の小鳥の声とソルボンの時計台から鳴る鐘の音が聞える。市場(アール)に行くらしい重い荷車の音が遠くに響く。
自分は寝台の上から仰向きに天井を眺めて、自分は何故一生涯巴里に居られないのであろう。何故仏蘭西に生まれなかったのであろうと、自分の運命を憤るよりははかなく思うのであった。自分には巴里で死んだハイネルやツルゲネフやショーパンなどの身の上が不幸であったとはどうしても思えない。とにかくあの人たちは駐まろうと思った芸術の首都に生涯滞在し得た芸術家ではないか。自分はバイロンの如く祖国の山河を罵って一度は勇ましく異郷に旅立ちはしたものの、生活という単純な問題、金銭という俗な煩いの為に、迷った犬のように、すごすご、おめおめ、旧の古巣に帰って行かねばならぬ。ああ何と云う意気地のない身の上であろう。
投稿者 niimiya : 2009年07月25日 20:03
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