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2007年01月08日

【本】池波正太郎の映画日記

池波正太郎の映画日記 1978・2~1984・12

著者:池波正太郎
編者:山口正介(映画評論家・山口瞳の息子)
表紙:(カット)池波正太郎、(デザイン)多田進
解説:山口正介
出版:講談社文庫 い-4-23 P451 ¥680 初版1995/10 絶版中
ISBN:4-06-263073-7
初出:講談社刊行「最後のジョン・ウェイン」(1980/7)、「ラストシーンの夢追い」(1983/4)、「スクリーンの四季」(1985/2)から編集
入手:古本 ¥290

■内容(カバーより):
 スクリーンに男と女がめぐり合い、時が流れる。あふれる生活感と隙のない脚本、心うつ見事な演出。さまざまな感懐を胸に、銀座に酒飯して帰る……。どのような映画でも、楽しむ術を知っていた池波正太郎が、息づまる執筆の間に堪能した映画と、面白い身近の出来事をつづった、興趣尽きない好読物。全一巻。

■感想
池波正太郎が映画好きとは知らなんだ。それも、時代物に限らずアメリカ・ヨーロッパ・日本と実に幅広くいろいろ見てるですなぁ。
それも劇作家としての経験も長いせいか、作る側の目線も併せ持った論評がなかなか的確です。
かといって、辛口のぶった切りってわけじゃなくて、どの作品もいいところを見つけようとしていて、映画全体への愛がとても感じられます。
配給会社の試写にウキウキしながら向かうところが眼に浮かんできます。
映画日記とありますが、他の日常のことなどもいろいろ綴られていて、そのあたりも読んでいて楽しいです。(中には映画のことにはまったく触れられてない日もあったり…)
当然、試写おわりで銀座の店で一杯やったり、家でいろいろ料理つくったりと、食道楽な一面も描かれています。
でも、ちょっと食べすぎだったのかなぁ。
もっと健康に気使って長生きしてほしかったです・・
(そして梅安を完結させてほしかったなぁ)

お酒のんでご飯たべるときに、「酒飯」って表現をしばしつかってるんですが、なかなか味があって良い言葉だねぇ
真似して、これからちょくちょく使うことにしよっと。

映画が好きな人にも池波正太郎の小説が好きな人にもお薦め。
どっちもな人にはなおさらお薦め。
どちらでもない人は…う、うーん。

■評価(満点は☆☆☆☆、普通は☆☆、★は1/2)
《俺》☆☆☆
《薦》☆☆★

■引用
(P31より) 
 *月*日

 夕飯後、ベッドで転寝をしていたら、足許で猫が鳴く。聞きなれぬ鳴声だとおもって見たら、一度も見たことがない三毛猫が二階の書斎までのこのこと入って来たのだ。捨て猫らしい。このように人懐かしげにされると、追い出す気にもなれぬ。
 捨てるくらいなら、飼わなければいいのだ。
 これで、合わせて五匹の猫を食べさせなくてはならぬ。さあ、稼がなくてはと起き出し、机に向う。

(P86より) 
 *月*日
 
 朝、眠っているところをM新聞からの電話に起される。柴田錬三郎氏が急に亡くなられたという。びっくりするというより、がっかりしてしまう。柴田氏とは一度だけ雑誌の対談をしただけなのだが、そのときの柴田氏が好きだった。今月は茂出木心護、尾上多賀之丞、柴田錬三郎と、好きな人が三人も亡くなってしまった。好きな人の葬式には行きたくない。
 その中でも今朝のショックが最も大きかった。まだ亡くなる年齢ではなく、それに私と同じ時代小説家だからだろう。
 午後からヘラルドへ行き〔兵士トーマス〕の試写を観たが、観ながら、柴田氏のことをおもい浮かべたりしている。
 第二次世界大戦のクライマックスの一つ、ノルマンディ上陸作戦に呆気なく流弾に即死する二十一歳の新兵トーマス。
 イギリスの戦争博物館に秘蔵されている未公開の戦争フィルムの迫力の中に、この若い一人の兵士の出征と訓練と淡い恋愛と戦死が、空しく寂しく、そして恐ろしいまでの簡明さで語られていく。
(イギリスの兵士も、日本の兵士と同じだったのだ・・・・・・)
 それは、まぎれもなく、私の年代の青春の一ページだった。
 
池波正太郎の映画日記 (講談社文庫)

投稿者 niimiya : 2007年01月08日 23:39