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2003年10月13日

【本】小さき者へ・生れ出づる惱み

小さき者へ・生れ出づる惱み

[著者]
 有島武郎(ありしま・たけお)
[出版]
 新潮文庫 初1955/1 P94  
[入手]
 古本 50円 7刷(1957/3) 

[感想]
 神田の古本屋の店頭ワゴンから買いました、大分年季の入った文庫本で、中身も旧仮名でした。
 しかし、彼の文体には旧仮名旧字があっていて実にいいです。
 有島武郎は今まで読んだことがなくて、もっとドロドロした情念の世界を描いている人かと思っていましたが。
 この二作品に関しては、人間の善なる部分、高貴な側面を描いています。
 近頃、心が荒れてたので、その荒廃に、砂漠に降った雨のように染み入りました。
 お奨めです。
 機会があれば、「小さき者へ」だけでもいいので是非読んでみてください。
 
[評価]
 評価  ☆☆☆☆(満点)
 お薦め ☆☆☆☆

[引用] (小さき者へ P15より)
 愈々H海岸の病院に入院する日が來た。お前たちの母上は全快しない限りは死ぬともお前たち
に逢はない覺悟の臍(ほぞ)を堅めてゐた。二度と着ないと思はれる。――而して實際着なかつた――晴
着を着て座を立つた母上は内外の母親の目の前でさめざめと泣き崩れた。女ながらに氣性の勝(すぐ)れ
て強いお前たちの母上は、私と二人だけゐる場合でも泣顔などは見せた事がないといつてもいゝ
位だつたのに、その時の涙は拭くあとからあとから流れ落ちた。その熱い涙はお前たちだけの尊
い所有物だ。それは今は乾いてしまつた。大空を亙(わた)る雲の一片となつてゐるか、谷河の水の一滴
となつてゐるか、大洋の泡の一つとなつてゐるか、又は思ひがけない人の涙堂に貯へられてゐる
か、それは知らない。然しその熱い涙は兎も角もお前たちだけの尊い所有物なのだ。

小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)

投稿者 niimiya : 2003年10月13日 23:48

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