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2006年10月09日

【本】空飛ぶ馬 / 北村薫

空飛ぶ馬
著者:北村薫
カバー:高野文子
出版:創元推理文庫 M-き-3-1 初版1994/4 26刷1999/2 ¥580 P347
入手:BOOK OFF ¥105
初出:1989 東京創元社 単行本
内容(カバーより):
 どの一編もごく日常的な観察の中から、不可解な謎が見出される。本格推理小説が謎と論理の小説であるとするなら、殺人やことさら事件が起こらなくとも、立派に作品は書ける。勿論、これは凡百の手の容易になし得るものではないが。北村氏の作品は読後に爽やかな印象が残り、はなはだ快い。それは、主人公の女子大生や円紫師匠の、人を見る目の暖かさによるのだろう。鮎川哲也

目次:
 織部の霊
 砂糖合戦
 胡桃の中の鳥
 赤頭巾
 空飛ぶ馬

■感想
殺人も傷害も誘拐もおきない推理小説。
謎解き役が落語家ってのもなかなか面白い設定ですね。

前に読んだ恩田陸の「象と耳鳴り」もこんな感じでしたが、とにかく人が死なないってのはいいやね。

表題作の「空飛ぶ馬」は謎自体は一番シンプルですが、謎が解けた後ほのぼのと幸せになる一品でした。

対してその前の「赤頭巾」はぞくりと怖くなる話。
最後の一行がうまいねぇ。

話の順番が逆じゃなくてよかったよかった…

高野文子の表紙もいとよろしい。
(まぎらわしい名前に加えてこの拍子のせいで長らく作者を女性だと思っていたのだな、きっと)。

■評価
《俺》☆☆☆★
《薦》☆☆☆★

■引用(P77 「織部の霊」より)
 また、研究室はしんと静まった。円紫さんの話は終わった。
 織部の像は明るい光の中にある。謎めいた思い出の霧をはらわれたせいか、その姿はむしろ日向ぼっこをしている無骨な老人のように見えた。
 やがて、遠く潮騒のように、学生達の声や足音が響き始めた。午前の授業が終わったのだ。先生は顔を上げた。
「いや、これは、これは――」
 先生はいった。涙をながしてはいないのに、何だか泣き笑いのような表情だった。
 七十に遠くない先生は、そのままゆっくりと立ち上がった。そして窓辺に向かい、指の太い手を後ろに組むと、硝子や金属を光らせて広がる東京の街と、そこに残された柔らかい緑とに目をやった。がっしりとした背中が暖かそうだった。
 先生はきっと今あの夏の日の松風の音を聞いているのだろう、と私は思った。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

投稿者 niimiya : 2006年10月09日 20:46

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